深呼吸のリズムで踊る、大人のためのバレエのススメ|その5:あと何回、踊れるだろう?「趣味を越えると、クセになる by みうらじゅん」

深呼吸のリズムで踊る、大人のためのバレエのススメ|その5:あと何回、踊れるだろう?「趣味を越えると、クセになる by みうらじゅん」

June 04, 2026

趣味はある程度のところまでいくと

趣味を越える瞬間があって

それはクセになるんだよね

クセになるとやめられない

——みうらじゅんさんが、山田五郎さんのYouTubeチャンネルでそう話していた。

 

相変わらず、すごい言葉のセンスだなと思った。

「趣味」というと、どこか“楽しむもの”という感覚的な響きがある。
でも「クセ」になると、それはもう少し身体に近い。

  • やらないと落ち着かない。
  • 生活の中に染み込んでいる。
  • 呼吸のようなもの。

 

バレエも、ある地点を越えるとそうなるのかもしれない。

例えば今あなたが40歳として、70歳まで続けると仮定する。

週1回のレッスンなら、1年で約52回。
52回 × 30年 = 1,560回。

でも実際は、休み、体調、予定、気持ちの波などもある。
年間45回くらいがリアルだろう。

そうすると、生涯バレエレッスン回数は約1,350回。

1,350回。

数字だけ見ると多く感じる。
けれど、“毎日1レッスン受ける人生”に換算すると、たった3年半〜4年弱ほど。

そう思うと、大人バレエの1回って急に愛おしく見えてくる。

  • 週に一度、やっと時間を作って。
  • 仕事や家事の合間に。
  • 体調や気持ちを整えて。
  • 時には雨の日に重い足を動かして。

そんなふうにして、ようやく辿り着くレッスン。

 

行くとなれば、

  • 出かける前に「今日はどのウェアにしよう」と引き出しを開ける。
  • 鏡の前で髪を結ぶ時間。
  • バーを握る瞬間。
  • ピアノの最初の音。

全部が限りある回数の中にある。

 

時間銀行はない。

音符貯金は可能。

 

でもそれは目的があって貯めた音符たち。
使わないのであれば、貯めても消えてなくなる。

もしも、

一音符、一万円だとしたら?

結構高額だな、と思う設定で丁度良い。

プレパレーションに出遅れただけで、2、3万円は散財している。

結構な赤字だ。

時間も音符も、貴重なのだ。


ここ数年、ずっとピルエットについて考えている。

できたら達成感のあるものの一つ。
でも同時に、何年も同じ場所で止まり続ける人もいる。

 

例えば4番プリエからピルエットへ入る直前のタイミング。

本来そこだけが極端に難しいわけではない。
なのに、その箇所だけに何年も費やしているケースがある。

 

もちろん努力不足ではない。
真面目に取り組んでいる人ほど、そこにハマる。

 

でも、ふと思った。

壊れたレコードみたいに、ずっと同じ箇所でプツンプツンとなるのであれば、

いっそその方法を捨ててもいいのではないか、と。

 

あと何回、生涯でレッスンができる?

限りある回数の中で、同じ箇所だけに何年も費やすより、

別ルートを試した方が、その人の身体が開くこともある。

それでもダメなら、また別の道。

工夫しながら進むことで、時間も音符も無駄にしない。


「つま先」についても同じことを思う。

言ってみれば、「つま先を伸ばせばいいだけ」のことである。

が、しかし。

いくら伸ばす方法を伝授しても、まぁるいままの人は多からず少なからず。

伸ばそうと思って伸ばしている人は、果たしているだろうか。

ピルエットもそうだが、回ろうと思った瞬間に崩れる。

 

あれは

「回っているように見せつつ、高度なバランス感覚の上で成り立っている」

という、まずはベースありき。

それを飛び越えて回ろうとするから、回るどころか、崩れる。


つま先も同様。

伸ばそうとそもそも思うから(思ってない人もこの場合いるかも)、伸びない。

伸ばす云々の前に、まずはどこへ行きたいのか、が明確ではないから、

つま先が伸びないのだと思う。

つまり、つま先は、“行きたい方向”をただ指しているだけなのだ。

 

  • 前に進みたい。
  • 向こう側へ行きたい。

 

その照準を、身体の末端で合わせている。

だからピケで立つ時も、ジャンプする時も、

本来つま先は「あそこへ行きたい」を語っている。

 

逆に、ただ浮遊しているだけなら、行き先不明ゆえつま先も伸びない。

 

昨今、つま先の伸ばし方指南のようなものをよく見かける。
もちろん技術として必要な部分もある。

でも、それができるようになったとしても、

当の本人が目的地を知らなければ、つま先は丸いまま。

削りたての鉛筆のような、
針の先のような、

方向を示すコンパスのような鋭いつま先には、到底なれない。

 

弓を引いて、照準を合わせ、放つ。

行き先を示す先の尖った「矢印→」

 

バレエの感覚は、むしろこちらに近い。

矢先だけ整えても意味はない。

どこをどうやって狙うのか。
どこへ向かいたいのか。

その意志が身体を通り、最後に末端へ現れる。

だから本当に方向が定まった身体は、自然に尖っていくのだと思う。

その後に「つま先を伸ばす」という意思でもって床を感じ、目的地へと向かう。

 

ここで言う「目的地へ行く」ということは、すなわちきっと苦手な人が多いと思われる

「振り付け(順番)を即座に覚える」ということ。

これについては過去記事で触れているので、気になられたら読んでみて欲しい。


雑観

先日、バッハの「フーガ」の構造について読んでいて、とても腑に落ちた。

カノンは、主題をそのまま反復する形式。
一方フーガは、主題を変形しながら反復していく形式だという。

これを見た時、ピルエットのことを思い出した。

何年も同じ場所で詰まる。
なら、その方法はいったんやめてみる。

  • タイミングを変える。
  • 入り方を変える。
  • 意識を変える。
  • 呼吸からやり直す。

 

同じ「できない」を何度も反復するのではなく、

違う工夫をすることで、道が開ける。

できない要素を反復しすぎると、それが自分のデフォルトになる、

これが一番厄介。

 

いろんな工夫という名の「お試し」をやりつつも、主題(やりたい事や理想)は変わらない。

「ピルエットを成功させたい」

そこだけはずっと流れている。

 

大人バレエは、カノンではなく、フーガのように進むものなのかもしれない。

 

 

 

参考:

画像タップ(クリック)で、それぞれのリンク先をご覧いただけます。

実は…

わたしの心の師 "MJ" こと、みうらじゅんさんは九十九デザイン発掘社で展開している

架空で謎の月の星の砂の占の館の導き手』
ルナ・カスカトール・カスカベ先生』

のモデルなのです。

現在先生はとある場所の砂の発掘に行かれており、お休み中ですが、

また復活した際はどうぞよろしく。

 


このイラストを見ても、とてもわかりやすい解説をされています。

リンク先ではそれぞれの音楽の違いをYouTubeでも聴けるようにリンクがありますので、

ぜひ聴き比べしてみてください。


■ シリーズ『深呼吸のリズムで踊る、大人のためのバレエのススメ』

このシリーズではquatre-quarts ballet studio 講師の「わたし」が

日々感じたことを徒然に綴っています。

このシリーズは前回の「その4」で一旦最終回としていたのですが、

引き続き読んでみたい、と仰ってくださる方々に支えられ、

今回の「その5」もしたためてみました。

 

ぜひご感想もお気軽にお寄せください。

 

 

 

このシリーズはこのバナーが目印。ぜひ他の投稿も遡ってご覧ください。

 


 

文:quatre-quarts ballet studio 講師の「わたし」